ふさわしくない

 今にも雪が降りそうな曇天の下で結婚式がしめやかに行われる。新郎は型くずれした燕尾服を着て立ちつくし、ヴァージンロードを花嫁とその父親がやってくるのを待つ。父親は大きなヤクシカで、花嫁が泣きながらその枝分かれした角を引いて歩く。とぼとぼと歩くたびに花嫁は涙を落とし、父親はフンをぼとぼと落とす。その様子をデコイばかりの招待客たちが見守る。
 新郎の前まで来ると父親のヤクシカは上唇を裏返し盛大に鳴く。初めは観衆の涙を誘ったのだがいつまでたっても鳴きやまないので、苛立った新婦の母親がヤクシカの口にハンカチを突っ込んだ。花嫁は角から新郎の腕へと移り、神の御許へと歩を進める。十字架に張り付けられているのはイエスではなくミツユビナマケモノだ。情欲にまみれた神父は花嫁の胸元ばかりを見ている。
「あなたたち二人は、永遠の愛を誓いますか?」
 新郎は何も言わず、新婦だけが頷いた。
 突然、賛美歌を歌うために待っていた少年少女合唱団の一人が貧血で倒れてその拍子にパイプオルガンの音が鳴る。パイプの中で眠っていた老人の姿をした天使がその音に驚いて飛び出す。
「さぁ、祝福を」
 順番を間違ったことを知らないまま雲が割れて天から光が降り注いだ。天窓から差し込んだ光に新郎新婦が包まれると彼らの腕に一人の赤ん坊が授けられる。女の赤ん坊は泣き声の代わりにこう言う。
「心の貧しい人々は幸いである、天の国はその人たちのものである」
 そうして花嫁の乳を二、三度吸うと眠ってしまった。
 新郎は真っ青になって結婚指輪を投げ捨て、その場から走って逃げ出そうとする。花嫁は赤ん坊を抱えたままその後を追いかける。
「嫌だ、嫌だ。僕は結婚なんてしたくない!」
 新郎は叫びながら教会から飛び出す。ライスシャワーに迎えられた彼の額にはたくさんの冷や汗と米粒が。花嫁は追いかけながらブーケを後方へ投げる。不規則な放物線を描いてブーケは昨日初潮を迎えたばかりの少女の手に渡るが、隣にいたヤクシカがそれを奪って食べてしまう。
 新郎新婦がこの寒空の中、奇っ怪な叫び声を上げながら走っていく。二人はこのままハネムーンでチャドへと向かう。そこで再び祝福を受けて二人目の子供を授かることになる。事は成就した。あなたはアルファであり、オメガである。